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「やさしく頑張る」ベーシック ・第2回/全4回

その我慢は「優しさ」か「甘え」か

前回、「我慢」と「頑張る」は別物だという話をしました。 すると今度は、こんな疑問が出てきます。

じゃあ、我慢は全部やめていいの?

答えは、いいえです。 続けたほうがいい我慢と、手放したほうがいい我慢があります。 今回はその見分け方を、そのまま使える道具の形でお渡しします。

基準はひとつ。「なりたい自分に向かっているか」

わたしが使っている基準は、突き詰めるとひとつだけです。

それは、なりたい自分に向かっているか。

なりたい自分に向かう途中にある我慢は、「優しさ」です。未来の自分への。 なりたい自分と関係なく、ただ短期的な楽のために選んでいることは、「甘え」です。

ここで大事なのは、行為そのものでは決まらないということです。

痩せたいと本気で思っている人に、お菓子を差し出すのは優しさではありません。 逆に、なりたい自分に向かって頑張り続けてきた人が、限界を感じて休むのは、甘えではありません。 「我慢する」も「休む」も「やめる」も、行為だけを見たら善悪はつけられない。 どこに向かっているかで、同じ行為の意味がひっくり返るんです。

これは、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という心理療法の考え方とも重なります。 ACTでは、つらさを減らすことよりも「自分の価値(大切にしたい方向)に向かって足が動いているか」を重視します。 つらいかどうかではなく、向かっているかどうか。 この視点の切り替えが、今回の核心です。

耐えすぎる人と、投げ出しすぎる人は、同じ場所でつまずいている

わたし自身の話をします。

うつ病になって休職したあと、わたしは同じ職場に戻りました。 周りからは「環境を変えたほうがいい」とも言われました。 正直、戻るのは怖かったです。

でも、あのとき場所を変えて逃げていたら、「あの職場で壊れた自分」が、未完了のまま心に残り続けると思ったんです。 やり残したものは、消えません。形を変えて、次の場所まで追いかけてきます。 だからわたしは、戻って、話して、できることをひとつずつ見つけていく道を選びました。 あれはつらい我慢でしたが、「過去と仲直りした自分」というなりたい姿に、まっすぐ向かっていました。

一方で、わたしの家族に、耐えるのがとても苦手な人がいます。 嫌なことがあると、すぐにその場から降りたくなる。 本人も「またやめちゃった」と、あとで自分を責めるんです。

そばで見ていて気づいたことがあります。 耐えすぎる人と、投げ出しすぎる人は、正反対に見えて、同じ場所でつまずいているんです。 どちらも「なりたい自分」という行き先を見ないまま、その場の感情だけで決めている。 耐えすぎる人は「怖いから」とどまり、投げ出しすぎる人は「怖いから」降りる。 方向が逆なだけで、ハンドルを握っているのはどちらも脅威システムです。

これを地図にすると、こうなります。

行き先がある(なりたい自分に向かっている) 行き先がない(その場の感情で決めている) とどまる 降りる 未来への優しさ つらくても、育てている我慢 例:怖いけど同じ職場に戻る 戦略的な撤退 行き先のために、降りる選択 例:回復のために休職する 自分いじめ 怖いから、ただ耐えている 例:嫌われ怖さで断れない 甘え 怖いから、すぐ降りる 例:気まずさ回避の音信不通

この地図のポイントは、右上の「戦略的な撤退」です。 降りることが、優しさになる場合がある。 やめる・休む・離れるという選択も、行き先があるなら立派な前進です。 「耐える=えらい、やめる=逃げ」という一本の物差ししか持っていないと、この選択肢が見えなくなります。

そして左下の「自分いじめ」。 世の中で「忍耐力がある」と褒められている状態の中には、実はこれがかなり混ざっています。 行き先のない我慢は、どれだけ長く耐えても、どこにも着きません。

仕分けフローチャート:3つの問い

では、目の前の我慢がどの部屋に入るのか。 迷ったときは、この3つの問いを上から順に通してみてください。

問い① その我慢は、 なりたい自分につながっている? はい いいえ それは甘えか 自分いじめ。 設計し直そう 問い② 期限や出口はある? (いつまで? 何が変われば終わり?) はい いいえ 出口のない我慢 は危険。出口を 決めてから続行 問い③ 「つらい」と感じることを、 自分に許している? はい いいえ 我慢は続けても いい。感情の蓋 だけ開けよう その我慢は、あなたの優しさ 自信を持って続けていい ※「いいえ」が出ても、我慢を即やめる必要はありません。 引っかかった問いが、直すべき場所を教えてくれています。 ①なら行き先を、②なら出口を、③なら感情の扱いを直せばいい。

このフローチャートの良いところは、「いいえ」が出ても我慢を全部捨てなくていいことです。 引っかかった問いが、そのまま修理箇所を教えてくれます。

問い①で引っかかったら、行き先を考え直す。 問い②で引っかかったら、我慢はそのままでいいから、出口だけ決める。「3ヶ月やってダメなら相談する」でも立派な出口です。 問い③で引っかかったら、我慢しながらでいいから、「つらい」と感じる許可だけ自分に出す。つらいと言うことと、投げ出すことは別です。

練習:3つのケースで仕分けてみる

道具は、使ってみないと手に馴染みません。3つのケースで練習してみましょう。

ケース1: 「今の仕事がつらい。でも3年は続けるべきと言われたから耐えている」 ——問い①で引っかかります。「3年続けるべき」は誰かの物差しで、あなたの行き先ではありません。行き先が決まれば、続けるが正解になることも、辞めるが正解になることもあります。

ケース2: 「資格の勉強がつらくて、今日もサボってしまった。自分はダメだ」 ——まず確認したいのは、その資格が「なりたい自分」につながっているかどうか(問い①)。つながっているなら、サボった日は甘えではなく単なるガス欠かもしれません。第1回のエンジンの話を思い出してください。責める前に、燃料を疑う。

ケース3: 「友人関係で、ずっと聞き役ばかり。疲れたけど、断ると悪いから続けている」 ——問い②と③で引っかかります。出口(どうなったら関係を見直すか)がなく、「疲れた」という感情にも蓋がされている。この我慢は、いまのままだと「自分いじめ」の部屋にいます。

今回のまとめ

我慢は、行為ではなく行き先で決まる。 耐えすぎる人と投げ出しすぎる人は、同じつまずき方をしている。 降りることが優しさになる場合がある(戦略的な撤退)。 迷ったら3つの問い——行き先・出口・感情の蓋。

次回は、いよいよ攻めの回です。 続けると決めた我慢を、歯を食いしばって耐えるのではなく、自分を勇気づけながら進む技術。 「自分に優しくすると頑張れなくなる」という誤解を、根っこからほどきにいきます。

今回のワーク

いま迷っている我慢をひとつ選んで、本文のフローチャートに通してみてください。出た答えと、3つの問いのうちどこで引っかかったかを、ひとことメモしておきましょう。そのメモが、第4回で作る「自分の設計図」の材料になります。

感じたことを、書きとめておけます

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