「やさしく頑張る」ベーシック ・第1回/全4回
「頑張れない」には理由がある
頑張らなきゃいけないのは、わかってる。 でも、身体が動かない。気持ちがついてこない。 そんな自分を見て、「自分は意志が弱いんだ」と責めたことはないでしょうか。
わたしはあります。何度も。
社会人3年目のころ、わたしはうつ病になりました。 振り返れば、あのときのわたしは、ずっと頑張っていたんです。 誰よりも早く出社して、失敗しないように気を張って、弱音を吐かずに走り続けて。 それなのに、ある日ぷつんと、動けなくなりました。
頑張っていたのに、壊れた。 このことがずっと不思議でした。 でも、心理学を学んだ今は、あのとき何が起きていたのか、仕組みで説明できます。
この第1回は、講座全体の土台です。 「気合」や「性格」の話を、いったん全部「仕組み」の話に置き換えていきます。
心を動かす、3つのエンジン
人の心には、行動を生み出すエンジンが3つある——。 これは、コンパッション(思いやり)の心理学で使われている考え方です。
ひとつめは脅威システム。危険から身を守るためのエンジンです。 「失敗したらどうしよう」「嫌われたくない」「怒られたくない」。 怖さや焦りを燃料にして、ものすごい瞬発力を出します。
ふたつめは動因システム。欲しいものに向かうエンジンです。 「これがやりたい」「あの景色が見たい」「できるようになりたい」。 ワクワクを燃料にして、長く走れます。
みっつめは鎮静システム。安心して休むためのエンジンです。 ホッとする、癒される、人とのつながりを感じる。 これは走るためではなく、他の2つのエンジンを回復させるために付いています。
3つとも、生きるために必要なものです。どれかが悪者なのではありません。 問題は、バランスです。
わたしが壊れた理由
うつ病になる前のわたしは、こうでした。
早く出社していたのは、行きたかったからではなく、「遅いと思われるのが怖かった」から。 気を張っていたのは、「失敗する自分を見られたくなかった」から。 弱音を吐かなかったのは、「弱いやつだと思われたくなかった」から。
ぜんぶ、脅威システムです。 わたしは3つのエンジンのうち、たった1つだけを、何年も回し続けていました。
脅威システムの燃料は怖さなので、走っている間、心はずっと非常事態です。 身体でいえば、アクセルを踏みながらサイレンを鳴らし続けているようなもの。 しかも怖さで走る人は、鎮静システムを使うのが下手です。 休んでいても「休んでていいのかな」と怖くなる。つまり、休んでいるのに休めていない。
回復が消費に追いつかないまま走れば、いつか止まります。 わたしが「ぷつん」と動けなくなったのは、意志が弱かったからではありません。 設計上、必ずそうなる走り方をしていたからです。
もしあなたが今「頑張れない」と感じているなら、まずこう疑ってみてください。 頑張る力がないのではなく、脅威システムの走りすぎで、燃料が尽きかけているだけではないか、と。
「我慢」と「頑張る」は別物
エンジンの話を踏まえると、この講座でいちばん大事な区別が見えてきます。
「我慢」と「頑張る」は、別物です。
外から見ると、どちらも同じに見えます。本人ですら、区別がついていないことが多い。 でも、中で起きていることはまるで違います。
我慢は、脅威システムで現在に耐えること。 頑張るは、動因システムで未来に向かうこと。
「頑張れない」と感じているとき、実際に起きているのは多くの場合こうです。 すでに大量のエネルギーを、我慢に使ってしまっている。 感情に蓋をするのは、重い荷物を水中に沈めておくのと同じで、持続的に力が要ります。 その上で新しく何かをやろうとしても、出せる力が残っていないんです。
だから、必要なのは「もっと気合を入れること」ではありません。 自分が今、何を我慢していて(=どこでエネルギーが漏れていて)、 **何に向かって頑張りたいのか(=動因システムの行き先はどこか)**を、 分けて眺めることです。
チェック:あなたはどのエンジンで走ってる?
最近の自分を思い浮かべて、当てはまるものを数えてみてください。
- やる気の中身が「やりたい」より「やらないとまずい」のほうが多い
- 休んでいる時に、罪悪感や落ち着かなさが出てくる
- 頑張る理由を聞かれたら、「〜と思われたくないから」で説明できてしまう
- 達成しても嬉しさが一瞬で消えて、すぐ次の心配が始まる
- 「何がしたいの?」と聞かれると、答えに詰まる
3つ以上当てはまったら、あなたのメインエンジンはいま、脅威システムです。 それはあなたの欠陥ではありません。 そのエンジンで走らざるを得ない時期が、長かったというだけのことです。 実際、脅威システムはあなたを今日まで生き延びさせてきた、功労者でもあります。
この講座の残り3回で、走り方を少しずつ変えていきます。 第2回は「その我慢は、続けるべきか手放すべきか」を見分ける基準。 第3回は、動因システムに火を入れる「自分への言葉」の技術。 第4回は、鎮静システムを組み込んだ「続け方」の設計です。
まずは今回のワークで、いまの自分の走り方を確かめるところから始めてみてください。
今回のワーク
巻末のチェックリストで、いま自分がどのエンジンで走っているかを確かめてみてください。そのうえで、最近「頑張れなかった」場面をひとつ思い出し、「あれは頑張れなかったんじゃなくて、我慢のガス欠だったのかもしれない」という目で、眺め直してみましょう。
感じたことを、書きとめておけます
書いた内容は、あなたのこの端末の中にだけ保存されます。どこにも送信されません。