はじめの一歩は、自分を認めること ・第2章
気づく 感情と距離を取る
「何を感じてるか分からない」から始まる
自分を認める前に、実はもうひとつ手前の関門があります。
そもそも、自分がいま何を感じているのか分からない、という状態です。
長いあいだ感情を押し殺してきた人ほど、ここでつまずきます。「今どんな気持ち?」と聞かれても、言葉が出てこない。悲しいのか、悔しいのか、疲れているだけなのか、区別がつかない。僕も、うつになるまで自分の気持ちに名前をつけたことなんて、ほとんどありませんでした。
感じていないわけではないんです。感じているのに、見ないことにしてきただけ。だからこの章では、感情に「気づく」練習をします。
考えと事実を、分けてみる
まず知っておいてほしいのは、頭に浮かんだ考えは、事実ではないということです。
「僕はダメだ」という考えが浮かんだとします。このとき、頭の中では「僕はダメだ」が事実として扱われています。でも正確に言えば、起きたのは「『僕はダメだ』という考えが、いま浮かんだ」という出来事です。
考えが浮かんだことと、それが本当かどうかは、別の話です。
心理学ではこれを、考えと自分を切り離すという意味で「脱フュージョン」と呼びます。フュージョンは融合。考えと自分がぴったり張り付いて、区別がつかなくなっている状態です。張り付いたものを、少しはがす。それだけで、考えはただの考えに戻ります。
やり方は簡単で、頭に浮かんだ言葉の前後に、一行足すだけです。
「僕はダメだ」 ↓ 「『僕はダメだ』という考えが、いま来ている」
たったこれだけで、考えとのあいだに少し距離ができます。距離ができると、飲み込まれにくくなる。感情はなくなりません。そのままで、見える位置が変わるんです。近くで見ていたものを、少し離れて見る。それだけで存在感は変わるんです。
感情は、ためると理由を集める
もうひとつ、僕の実感から伝えたいことがあります。
感情は、頭の中に置きっぱなしにすると、仲間を集めます。
たとえば「あの一言、嫌だったな」という気持ちを放っておくと、翌日には「そういえば先月もあの人は」と理由がひとつ増え、その翌日には「だいたい自分はいつも」とまた増える。感情そのものが膨らむというより、紐づく理由が増えて、存在感が増していくんです。
だから、小さいうちに頭の外に出す。書く、話す、動く。何でもいいのですが、この教材では「書く」を使います。頭の中にあるうちは絡まっているものも、紙に出すと、ただの文字列になる。
ちなみに僕は、これを日記でやっています。上手に書く必要はまったくなくて、「今日、会議のあの空気が嫌だった」の一行でも十分です。
名前が見つからないときのために
書こうとしたとき、「嫌だった」以上の言葉が出てこないことがあると思います。感情を押し殺してきた期間が長い人ほど、感情の語彙は錆びついています。錆は使えば落ちるので、最初は下のリストから選ぶところから始めてください。
悲しい 悔しい 寂しい 怖い 恥ずかしい むなしい 焦っている 腹が立つ がっかりした 置いていかれた気がする 分かってほしかった
コツをひとつだけ。「疲れた」という言葉が出てきたら、その下にもうひとつ別の感情が隠れていないか、少しだけ探ってみてください。僕の経験では、「疲れた」は本当の気持ちの上にかぶせる毛布として使われていることがけっこう多いです。見つからなければ、「疲れた」のままで大丈夫です。
ワーク2 観察メモ(3日間)
今日から3日間、寝る前に5分だけ時間を取ってください。
やることは2つです。ノートに、1日ぶんとして2行書きます。
- 今日、頭に浮かんだ「自分を責める考え」をひとつ思い出して、そのまま書く
- その下に、「〜という考えが来ていた」の形に書き換えて、もう一度書く
記入例 そのまま:また段取りが悪くて迷惑をかけた。自分は仕事ができない。 書き換え:「自分は仕事ができない」という考えが来ていた。
書き換えたとき、心の中で何かが1ミリでも変わったら、それも横にメモしておいてください。「少し他人事に見えた」でも「何も変わらなかった」でも、どちらも大切な観察記録です。
この章で感じたこと
ワークはノートに書くのがおすすめですが、いま手元にないときは、ここにどうぞ。
浮かんだことを、そのまま
書いた内容は、あなたのこの端末の中にだけ保存されます。どこにも送信されません。